怪物 アーコル

昔アーコルという青年がいました。

アーコルは村一番の働き者でした。

村での信頼は厚く、村人みんなに好かれていました。

アーコルには妻子がありました。

たいそう子供好きなアーコルは、自分の子供だけでなく村中の子供を可愛がりました。

誠実で温厚なアーコル。

優しくて力持ちアーコル。

頼りになるアーコル。

みんなアーコルが大好きでした。

ある日、アーコルは町への用事を頼まれました。

村の特産物の「鮭」を町に売りに行くのです。

町へは遠い道のりです。

若く活力のあるアーコルは

村のため一生懸命歩きます。

重い荷物を背負い歩きます。

山を二つ越えなければなりません。

「この荷物には村の思いが詰まっている」

アーコルは歩きます。

一つ目の山奥での出来事です。

アーコルは疲れてヘトヘトです。

今夜は山で休もうと腰を下ろしました。

あたりはすっかり暗くなり、木々はじっとアーコルを見つめています。

アーコルがウトウトしていると、チョロチョロと水の流れる音がします。

アーコルは水の音がする方へ向かいました。

木々の間に泉が息づいています。

ひどく疲れ喉の渇きを覚えていたアーコルが、泉の水を飲もうとした時です。

「やめなさい」

誰かがアーコルへ声をかけました。

アーコルは身をすくめます。

「…誰だ?」

返事はありません。

……。

「飲んではいけません。もし飲むというのなら十日間にこの器一杯だけにしなさい。

守れますか?守れないなら、この水は絶対に飲んではいけません。いいですね」

それ以降声は聞こえなくなりました。

アーコルの足下には漆黒の綺麗な器がありました。

アーコルは器に一杯だけ飲みました。

疲れが嘘のようになくなり何とも活力が湧いてきました。

町では特産物もよく売れました。

帰りに再びあの泉へ立ち寄りました。

アーコルはあの快楽が忘れられず、十日の約束を守らず水を飲みました。

再びあの感覚が襲ってきました。

村へ戻ったアーコルは変わらず働き者でした。

しかし一つ変わったことがありました。

アーコルは泉が忘れられないのです。

毎晩村中が寝静まったあと、あの泉へ向かうのです。

約束の10日間に一杯は守られませんでした。

アーコルは欲望のまま泉の水を飲みました。

そんなある日です。

アーコルは怪物になりました。

怪物になったアーコルは村中の人間を食べてしまいました。

あんなに可愛がっていた村中の子供もみんなです。

ふたたびアーコルが人間へと戻った時、そこにはアーコルの知っている村はありませんでした。

アーコルにはわかりません。

”なぜこうなっているのか?”

アーコルはすでに虫の息の村人に、憎しみを込めて言われます。

「化物め!お前がやったんだ!」

アーコルは亡骸となった自分の妻子を抱き、嗚咽を洩らし絶叫します。

アーコルは泉へ向かいました。

泉へ問います。

「なぜ飲ませたのだ!!

あの時身を切り裂いてでも止めてくれていれば私は過ちを冒さずすんだのだ!答えてくれ‥」

泉はアーコルの咆哮に水面を揺らすだけであった。

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